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割烹蒲焼 大観楼×石黒建築工房 特別インタビュー
203年続く老舗を、次の時代へ。
大観楼リニューアルに見る、“自分事”として向き合う建築
大観楼 代表の遠藤社長と、石黒建築工房 代表の石黒。
宮城・仙台で、文政5年(1822年)から暖簾を守り続ける老舗うなぎ店「大観楼」。創業から203年。長い歴史の中で、時代ごとに姿を変えながら、多くの人に愛され続けてきた名店だ。今回、その1・2階を大規模リニューアルした。手掛けたのは、宮城の工務店・石黒建築工房。両者の付き合いは、実に24年にも及ぶ。しかし今回のプロジェクトは、単なる改装工事ではなかった。そこにあったのは、「この店を、次の時代へどうつなぐか」という、老舗ならではの葛藤と決断。そして、“建築”を超えて伴走した、一つの物語だった。


「大きくする」のではなく、「何を残すか」
今回のリニューアルについて、遠藤慎一社長は静かに振り返る。「規模を大きくしたい、ということではなかったんです。むしろ、これから先を考えた時に、“何を残すべきか”をずっと考えていました」その背景には、時代の変化がある。働き方。接客のあり方。人材不足。インバウンド。そして、家族経営の未来。さらに今回は、シンガポールで4年間和食修行を積んだ息子・篤利さんが帰郷。次世代への継承も、大きなテーマとなっていた。「年齢を考えても、“今じゃないとできない”と思ったんです」その言葉には、203年続く老舗を背負う覚悟が滲んでいた。
仙台の中心部に店舗を構える大観楼の外観。
“変化”をつくる仕事
石黒建築工房が大観楼と関わり始めたのは約19年前。建具の交換。和室改修。部分的なリニューアル。少しずつ、少しずつ、この店に寄り添ってきた。石黒建築工房・石黒社長はこう語る。「歴史ある老舗ですから、毎回プレッシャーは大きいんです。奇をてらうことなんてできない。“下手なことはできない”という緊張感がずっとある」今回向き合ったのは、30数年前に増築された空間だった。「増築によるアンバランスさがあった。それを、時代に合わせながら、足し算と引き算で整えていった感覚です」だが今回、石黒社長が向き合っていたのは、単なる空間バランスだけではなかった。「これは、“変化”のタイミングだと思ったんです」その言葉通り、今回のプロジェクトは、内装を変えるだけの話ではなかった。働く人の意識。お客様との距離。店の空気。家族の時間。そうした、“店のあり方”そのものを変えていく仕事だった。
過去に設計・施工を行った、客間、格子等。
“職人を見せる”という決断
今回のリニューアルで最も象徴的なのが、「職人を見せる」空間づくりだ。1階エントランスには、鰻の捌き場を配置。来店した瞬間から、職人の手仕事が目に飛び込んでくる。さらに2階には、仙台唯一となる、焼き場が見えるオープンカウンター席を新設。注文を受けてから一枚ずつ焼き上げる様子を、香りとともに体感できる空間へと生まれ変わった。「もともとは、それぞれが専門職だったんです」遠藤社長はそう話す。「焼く人、裂く人、それぞれの持ち場があって、お客様と直接接することは少なかった。でも、時代は変わってきている。これからは、お客様の笑顔を見ながら仕事をする時代だと思ったんです」厨房の奥にあった仕事を、表へ出す。それは単なる演出ではなく、“働き方”そのものを変える挑戦だった。
エントランスでは鰻を捌く様子を見ることができる。カウンターには、遠藤社長の自宅の欄間を利用。
オープン厨房とカウンター席。足元には秋保石を使用。
奥のテーブル席とは、デザイン性のある障子枠で優しく仕切られている。
水の音すら、空間体験になる
大観楼では、24時間流水で鰻を管理している。ストレスを与えず、臭みを抑え、最高の状態を保つためだ。今回、その水場をあえて見える場所へ移設した。石黒社長は、その理由をこう語る。「水の流れる音が、すごく良い音だったんです」遠藤社長は笑いながら振り返る。「私は逆に、“水の音で声が聞こえづらいんじゃないか”と思っていたんですよ(笑)」だが石黒社長は、その音すら空間価値として捉えていた。焼きの香り。炭火の熱。包丁の音。水の流れる音。五感で楽しむ店へ。それは、“食事をする場所”から、“体験する場所”への進化だった。
元々、鰻はお客様に見えない場所で管理されていた。
リニューアル後、一部をエントランスの捌き場に移動。
「自分事」として向き合う
今回の取材で、何度も印象に残った言葉がある。それが、「自分事」だ。遠藤社長は、石黒社長についてこう語った。「今回も、本当に何でも相談しました。石黒さんは、“自分事”として関わってくれたんです」ただ依頼を受け、図面を描くのではない。家族の悩み。店の未来。働く人たちの変化。次世代への継承。それらを共有しながら、一緒に考え続ける。石黒社長もこう話す。「役に立ちたかったんです」その言葉は、決して大げさではない。プレオープンの日。オーナー夫婦と、息子たちが一緒に働く姿を、大女将に見せることができた。石黒社長は、その瞬間を「ひとつの恩返しのようだった」と振り返る。だがその後、大女将はグランドオープンを見ることなく亡くなった。「孫が帰ってきたことを、一番喜んでいたと思う」遠藤社長のその言葉に、このリニューアルが単なる店舗改装ではなかったことが表れている。そこにあったのは、“家族の物語”だった。
造作組子の窓や特注の竹製照明が印象的なテーブル席。
地方から世界へ
今、大観楼には海外からの来店も増えている。その中心に立つのが、シンガポールで修行を積んだ篤利さんだ。「外国の方にも、この店を楽しんでほしいんです」裂き場。焼き場。カウンター。日本の職人文化そのものを、体験として届ける。「僕のために改装してくれたんだと思っています。だから期待を裏切りたくない。味は守りながら、“来て良かった”と思ってもらえる店にしたい」地方の老舗が、世界へ向けて価値を発信していく。今回のリニューアルは、その大きな転換点でもあった。
篤利さんの仕事を見守る遠藤社長。
建築は、“未来”をつくる仕事
石黒建築工房が今回行ったのは、単なるデザインではない。空間を変え、人の流れを変え、働き方を変え、店の未来を整えていく。そして何より、“自分事”として向き合うこと。203年続く老舗の次の時代を、一緒につくること。建築とは、未来をつくる仕事なのだと、改めて感じさせられるプロジェクトだった。
店舗情報
 店名   | 割烹蒲焼 大観楼
 住所   | 〒980-0811 仙台市青葉区一番町3丁目9-5
 営業時間 | ランチ 11:30~14:30 (L.O. 14:00)
       ディナー 17:00~21:00 (L.O. 19:00、ドリンク  L.O. 20:30)
 定休日  | 月曜日 ※月曜が祝日の場合はその翌日がお休みになります。


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